革ジャンは、着るほどに体に馴染み、独特の風合いが増していく魅力的なファッションアイテムです。一生物として大切に育てていきたいと考える方も多いでしょう。しかし、その一方でデリケートな素材であるため、汚れやカビ、型崩れなど、お手入れに関する悩みは尽きません。特に「クリーニング」については、「料金はいくら?」「どこに出せばいいの?」「そもそもクリーニングは必要なのか?」といった疑問がつきものです。
この記事では、大切な革ジャンを長く愛用するために知っておきたいクリーニングの知識を網羅的に解説します。料金相場から、依頼先の選び方、適切な頻度とタイミング、さらにはリスクを理解した上での自宅での洗い方や日々のお手入れ方法まで、あらゆる角度から詳しくご紹介します。
この記事を読めば、あなたの革ジャンに最適なメンテナンス方法が見つかり、自信を持ってコンディションを管理できるようになるでしょう。
目次
革ジャンのクリーニング料金相場
革ジャンのクリーニング料金は、依頼する店舗の形態や革の種類、ジャケットのデザイン、汚れの状態、追加するオプションなど、様々な要因によって大きく変動します。一般的な衣類と比べて専門的な技術と手間が必要となるため、料金は高めに設定されています。ここでは、主な依頼先である「店舗型」と「宅配型」の料金相場について、詳しく見ていきましょう。
店舗型クリーニングの料金
店舗型クリーニングは、街中にある一般的なクリーニングチェーン店や、革製品を専門に扱う個人経営店などを指します。直接スタッフに革ジャンの状態を見てもらい、相談しながら依頼できるのが大きなメリットです。
一般的なクリーニングチェーン店の場合、革ジャンのクリーニング料金はおおよそ5,000円から15,000円程度が相場です。ただし、これは基本的な洗浄のみの価格帯であり、多くの店舗では革製品を専門工場に送って処理するため、仲介手数料が上乗せされている場合があります。
一方、革製品専門のクリーニング店では、料金相場は8,000円から25,000円、あるいはそれ以上になることも珍しくありません。料金は高めですが、その分、革の種類や状態を熟知した職人が、一点一点手作業で丁寧に仕上げてくれます。洗浄だけでなく、色補正(リカラー)やキズ修復、オイルアップといった高度なメンテナンスも依頼できるのが特徴です。
料金を左右する主な要因は以下の通りです。
- 革の種類: 牛革(カウハイド)、馬革(ホースハイド)、羊革(シープスキン)、山羊革(ゴートスキン)など、素材によって料金が異なります。特にデリケートで扱いの難しいスエードやヌバック、ムートンなどは高くなる傾向があります。
- デザイン・サイズ:シンプルなライダースジャケットよりも、着丈の長いハーフコートやロングコート、装飾(スタッズやベルトなど)が多いデザインは、手間がかかるため料金が上がります。
- 汚れ・カビの状態: シミ抜きやカビ取りは、基本的なクリーニング料金に含まれず、オプション料金として別途請求されるのが一般的です。汚れやカビの範囲、度合いによって料金は変動し、数千円から1万円以上の追加費用がかかることもあります。
- オプション加工: 撥水加工、防カビ加工、色補正、キズ修復などもオプションとなります。これらの加工を複数依頼すると、合計金額はさらに高くなります。
店舗型クリーニングを利用する際は、必ず事前に見積もりを取ることが重要です。ジャケットの状態をしっかりと確認してもらい、どの作業にいくらかかるのか、内訳を明確にしてもらった上で依頼するようにしましょう。
宅配クリーニングの料金
宅配クリーニングは、自宅から革ジャンを発送し、クリーニング後に自宅へ届けてもらうサービスです。店舗へ持ち込む手間が省け、近所に専門店がない場合でも全国の優良店に依頼できるのが魅力です。
宅配クリーニングの料金相場も店舗型と大きくは変わりませんが、サービスによって料金体系が異なります。
- 単品料金制: 1点ごとに料金が設定されているタイプです。革ジャンの場合、7,000円から20,000円程度が目安となります。多くの革専門の宅配クリーニングがこの形式を採用しており、専門的なケアを期待できます。
- パック料金制: 「5点で〇〇円」のように、複数の衣類をまとめて依頼するプランです。一般的な衣類が対象で、革製品は対象外か、別途特別料金が必要となるケースがほとんどです。革ジャンをパック料金で依頼できるサービスは稀ですが、もし対象であれば、他の衣類と一緒に出すことで1点あたりの単価を抑えられる可能性があります。
宅配クリーニングの料金も、店舗型と同様に革の種類やデザイン、オプションによって変動します。また、サービスによっては往復の送料が別途必要になる場合や、一定金額以上の利用で送料無料になる場合があります。見積もり後、作業内容に納得できずにキャンセルした場合のキャンセル料や返送料についても、事前に規約を確認しておくことが大切です。
料金体系 | 料金相場の目安 | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|---|
店舗型(一般) | 5,000円 ~ 15,000円 | ・近所で手軽に依頼できる ・対面で相談できる |
・専門性が低い場合がある ・オプション料金が高くなることも |
店舗型(専門店) | 8,000円 ~ 25,000円+ | ・高い専門技術と知識 ・リペアやリカラーも可能 |
・料金が高額になりやすい ・店舗数が限られる |
宅配型(単品) | 7,000円 ~ 20,000円 | ・全国の専門店に依頼可能 ・自宅で完結する手軽さ |
・送料や手数料がかかる場合がある ・実物を見ながら相談できない |
宅配型(パック) | 対象外または特別料金 | ・他の衣類とまとめてお得に ・保管サービスがある場合も |
・革製品が対象外のことが多い ・専門的なケアは期待できないことも |
最終的に、革ジャンのクリーニングは単なる「洗浄」ではなく、「メンテナンス」や「修復」という側面が強いため、料金の安さだけで選ぶのは避けるべきです。革の状態や求める仕上がりに応じて、適切な知識と技術を持つ依頼先を慎重に選ぶことが、結果的にコストパフォーマンスを高めることに繋がります。
革ジャンのクリーニングはどこに出す?依頼先の種類と比較
大切な革ジャンをクリーニングに出す際、どこに依頼するかは非常に重要な選択です。仕上がりの質や料金、利便性が大きく異なるため、それぞれの特徴を理解し、自分の革ジャンやライフスタイルに合った依頼先を見つける必要があります。主な依頼先は「一般的なクリーニング店」「革製品専門のクリーニング店」「宅配クリーニング」の3つに大別されます。
一般的なクリーニング店
駅前や商店街など、身近な場所にあるチェーン展開しているクリーニング店です。最大のメリットは、その手軽さと利便性にあります。普段使いのワイシャツやスーツを出すついでに、革ジャンもお願いできるため、手間がかかりません。料金も専門店に比べると比較的安価な傾向があります。
しかし、その手軽さの裏にはデメリットも存在します。一般的なクリーニング店のスタッフは、必ずしも革製品の専門知識を持っているわけではありません。多くの場合、店舗で受け付けた革ジャンは、提携している専門の工場に外注されます。そのため、以下のようなリスクや注意点が考えられます。
- 仕上がりの質のばらつき: 外注先の工場の技術力によって、仕上がりが大きく左右されます。満足のいく結果になることもあれば、革が硬くなったり、風合いが変わってしまったりするリスクもゼロではありません。
- 細かい要望が伝わりにくい: 受付スタッフから工場へは、マニュアル化された指示しか伝わらない可能性があります。「この部分の風合いを残してほしい」「このシミだけ重点的に処理してほしい」といった、微妙なニュアンスの要望が反映されにくいことがあります。
- 複雑な修理や補色には対応できない: 高度な技術を要するキズの修復や、色褪せを補うリカラー(染め直し)といった作業は、ほとんどの場合対応していません。基本的な洗浄がメインとなります。
一般的なクリーニング店は、汚れが少なく、比較的新しい状態のシンプルな革ジャンを、手頃な価格でクリーニングしたい場合には選択肢の一つとなり得ます。ただし、依頼する際には、革製品の取り扱い実績や、万が一の際の保証内容について事前にしっかりと確認しておくことが賢明です。
革製品専門のクリーニング店
革製品専門のクリーニング店は、その名の通り、レザーウェアやバッグ、靴などの革製品を専門的に取り扱うプロフェッショナルです。最大のメリットは、圧倒的な専門知識と高い技術力にあります。
- 革のプロによる診断と施術: 店には革を熟知した職人が在籍しており、持ち込まれた革ジャンの素材、なめし方、製造方法、劣化状態などを的確に診断します。その上で、最適な洗浄方法、溶剤、加脂剤を選定し、一点一点手作業で丁寧にケアを行います。
- 細やかな要望への対応: 対面で職人と直接相談できるため、仕上がりのイメージや特に気になっている点などを細かく伝えられます。これにより、理想に近い形で革ジャンを蘇らせることが可能です。
- 高度なリペア・リカラー: クリーニングだけでなく、破れの修復、ファスナー交換、裏地の張り替え、深いキズの補修、全体的な色補正(リカラー)など、幅広い修理に対応しています。長年愛用してダメージが蓄積した革ジャンも、見違えるように綺麗になる可能性があります。
一方で、デメリットとしては料金の高さと店舗数の少なさが挙げられます。専門的な技術と手間をかける分、料金は一般的なクリーニング店の1.5倍から2倍以上になることも少なくありません。また、店舗が都市部に集中している傾向があり、地方在住の場合は利用が難しいこともあります。
ヴィンテージの革ジャンや高級ブランド品、特殊な加工が施されたデリケートな革ジャン、あるいは深刻なダメージ(カビ、硬化、色褪せなど)を抱えた革ジャンは、迷わず革製品専門店に相談することをおすすめします。料金はかかりますが、それに見合うだけの安心感と満足度の高い仕上がりが期待できます。
宅配クリーニング
宅配クリーニングは、インターネット経由で申し込み、衣類を箱に詰めて送るだけでクリーニングが完了するサービスです。近年、その利便性から利用者が急増しており、革ジャンのような特殊なアイテムに対応するサービスも増えています。
宅配クリーニングのメリットは多岐にわたります。
- 利便性の高さ: 24時間いつでも好きな時に申し込め、自宅にいながら集荷から受け取りまで完結します。店舗の営業時間を気にする必要がなく、重い革ジャンを運ぶ手間もありません。
- 全国の優良店を選べる: 近所に専門店がない場合でも、全国各地にある評価の高い革専門のクリーニングサービスを利用できます。 選択肢が広がるため、自分の革ジャンに最適な技術を持つ業者を見つけやすくなります。
- 豊富なオプションと保管サービス: 多くのサービスで、シミ抜きや撥水加工、補色などのオプションが用意されています。また、クリーニング後に次のシーズンまで最適な環境で預かってくれる長期保管サービスは、自宅の収納スペースを圧迫しないため非常に人気があります。
デメリットとしては、実物を見ながら相談できない点が挙げられます。写真や文章で状態を伝えることになりますが、微妙な色合いや質感、ダメージの程度が正確に伝わらない可能性があります。また、見積もりや仕上がりの確認も画面越しになるため、若干の不安を感じる方もいるかもしれません。送料や、万が一のキャンセル時の返送料なども事前に確認が必要です。
忙しくて店舗に行く時間がない方や、近所に信頼できる専門店がない方、複数の衣類をまとめてクリーニングし、そのまま保管もお願いしたい方にとって、宅配クリーニングは非常に有効な選択肢と言えるでしょう。
依頼先 | メリット | デメリット | こんな人におすすめ |
---|---|---|---|
一般的なクリーニング店 | ・手軽で便利 ・料金が比較的安い |
・専門性が低いリスク ・仕上がりにばらつき ・高度な修理は不可 |
・軽微な汚れの革ジャンを手頃な価格でクリーニングしたい人 |
革製品専門のクリーニング店 | ・高い専門知識と技術力 ・リペアやリカラーも可能 ・直接相談できて安心 |
・料金が高い ・店舗数が少ない |
・高級品、ヴィンテージ品、深刻なダメージのある革ジャンを持つ人 |
宅配クリーニング | ・自宅で完結し便利 ・全国の優良店を選べる ・保管サービスが利用可能 |
・対面での相談ができない ・送料がかかる場合がある |
・忙しい人、近所に専門店がない人、衣替えでまとめて出したい人 |
革ジャンをクリーニングに出す頻度とタイミング
革ジャンは頻繁にクリーニングする必要はありません。むしろ、洗いすぎは革本来の油分を奪い、風合いを損ねる原因にもなり得ます。しかし、全く手入れをしないと汚れや湿気が原因でカビや劣化が進んでしまいます。では、どのくらいの頻度で、どのようなタイミングでクリーニングに出すのが最適なのでしょうか。
基本的な頻度は2〜3年に1回
一般的に、革ジャンのクリーニング頻度は2〜3年に1回が目安とされています。もちろん、これはあくまで着用頻度や保管状況によるため、一概には言えません。例えば、ほぼ毎日着用するヘビーユーザーであれば1〜2年に1回、週末に時々着る程度であれば3〜5年に1回でも十分な場合があります。
なぜ頻繁なクリーニングが不要かというと、革は布製品と異なり、繊維の奥深くまで汚れが染み込みにくい性質があるためです。表面についたホコリや軽い汚れは、日々のブラッシングでほとんど落とすことができます。
クリーニングの目的は、こうした日常的なケアでは落としきれない、襟元や袖口に付着した皮脂汚れや、目に見えない汗の塩分、そして革の内部に浸透してしまった汚れを取り除くことです。これらの汚れを長期間放置すると、革の硬化や変色、カビ、悪臭の原因となります。
したがって、「何年経ったから出す」と機械的に決めるのではなく、革ジャンのコンディションを定期的にチェックし、必要だと感じた時に出すという考え方が最も重要です。
クリーニングに出すべきサイン
着用頻度に関わらず、革ジャンが以下のようなサインを発していたら、それはクリーニングを検討すべきタイミングです。放置すると状態が悪化し、修復が困難になったり、高額な費用がかかったりする可能性があります。
カビが生えてしまった
革ジャンにとって最大の敵の一つがカビです。特に、クローゼットの奥に長期間しまい込んでいた場合、湿気と革に残った汚れを栄養源としてカビが発生しやすくなります。
- サイン: 表面に白や緑、黒い点々とした胞子が付着している。カビ臭い、土臭いような独特の臭いがする。
- 原因: 高温多湿な環境、汗や皮脂汚れの放置。
- 対処: 表面的なカビであれば、乾いた布で優しく拭き取った後、固く絞った布で水拭きし、陰干しするという応急処置も可能です。しかし、カビは革の内部に根を張っていることが多く、自分で完全に取り除くのは非常に困難です。 見えないカビ菌が残っていると、すぐに再発してしまいます。カビを発見したら、できるだけ早く専門のクリーニング店に相談しましょう。プロは専用の薬剤で殺菌・洗浄し、根こそぎカビを除去してくれます。
シミやひどい汚れが付いた
食べこぼしや飲み物のシミ、雨染み、ボールペンのインクなど、部分的に目立つ汚れが付いてしまった場合もクリーニングのタイミングです。
- サイン: 水分や油分による輪ジミ、色の濃いシミ、原因不明の汚れ。
- 原因: 食事中のハプニング、雨濡れの放置、化粧品の付着など。
- 対処: シミは時間が経つほど革の繊維に定着し、落としにくくなります。付いてしまったら、できるだけ早く対処することが肝心です。 水性のシミであれば、すぐに固く絞った布で叩くようにして吸い取ることで、ある程度は薄くできます。しかし、油性のシミやインクなどは、自己処理するとかえってシミを広げてしまう危険性があります。無理に擦らず、速やかにプロに任せるのが最善の策です。専門家はシミの種類を見極め、適切な溶剤を使って丁寧に除去してくれます。
革が硬くなった・ごわつく
新品の頃はしなやかだった革が、いつの間にか硬くなり、着心地が悪くなったと感じることはありませんか。これは革の油分が不足しているサインです。
- サイン: 腕を曲げ伸ばしする際にギシギシする。全体的に柔軟性がなく、ごわごわとした手触り。
- 原因: 経年による自然な油分の揮発、汗や汚れによる油分の劣化、不適切な保管環境(直射日光や高温)。
- 対処: 革の硬化は、クリーニングとそれに続く「加脂」という工程で改善できます。プロのクリーニングでは、洗浄によって失われた油分を、専用のオイルやクリームを使って革の内部までしっかりと補給してくれます。これにより、革本来のしなやかさと潤いが蘇ります。日常的なオイルメンテナンスで改善しないほどの硬化は、クリーニングに出す良い機会です。
嫌な臭いがする
革ジャンからカビ臭や汗臭、タバコ臭、香水の匂いなどが取れなくなった場合も、クリーニングを検討しましょう。
- サイン: 着用時に不快な臭いがする。クローゼット全体に臭いが移っている。
- 原因: 汗や皮脂の酸化、カビ菌の繁殖、タバコや飲食店の煙の付着。
- 対処: 消臭スプレーは一時的な効果しかなく、かえって革を傷めたり、別のシミの原因になったりする可能性があります。根本的な解決には、丸洗いによる臭いの元(雑菌や汚れ)の除去が必要です。 専門のクリーニング店では、消臭・抗菌効果のある溶剤で洗浄してくれるため、不快な臭いをリセットできます。
シーズンオフの衣替えの時期
上記のような明確なトラブルがなくても、革ジャンを長期間保管する前、つまり秋から冬にかけてのシーズンが終わり、春を迎える衣替えのタイミングは、クリーニングに出す絶好の機会です。
ワンシーズン着用した革ジャンには、目には見えなくても汗や皮脂、ホコリがたくさん付着しています。これらの汚れを落とさずにそのままクローゼットにしまうと、次のシーズンに取り出した時に、カビや虫食い、変色の原因となっている可能性があります。
シーズンオフにクリーニングに出すことで、汚れをリセットした綺麗な状態で保管でき、革の劣化を防ぐことができます。 また、次のシーズンが来た時に、すぐに気持ちよく着用を再開できるというメリットもあります。多くのクリーニング店では、クリーニング後の長期保管サービスも提供しているため、これを利用すれば、自宅の収納スペースを有効活用しつつ、最適な環境で革ジャンを休ませてあげられます。
クリーニングにかかる期間・日数の目安
革ジャンのクリーニングは、一般的な衣類のように数日で仕上がることはほとんどありません。専門的な工程が多く、慎重な作業が求められるため、ある程度の期間が必要になります。いざという時に「間に合わない!」と慌てないためにも、仕上がりまでにかかる日数の目安を把握しておくことが大切です。
一般的な目安としては、おおよそ3週間から1ヶ月半程度を見ておくと良いでしょう。ただし、これはあくまで基本的な洗浄のみの場合です。シミ抜きやカビ取り、色補正(リカラー)、キズ修復といったオプション加工を追加すると、さらに2週間から1ヶ月以上、納期が延びることも珍しくありません。
なぜこれほど時間がかかるのか、その理由をクリーニングの工程と共に見ていきましょう。
- 検品・カウンセリング (1日~数日)
店舗に持ち込まれた、あるいは宅配で到着した革ジャンは、まず専門のスタッフによって細かくチェックされます。革の種類、状態、汚れやキズの箇所、縫製の強度、付属品の有無などを確認し、最適なクリーニング方法を判断します。この段階でお客様に見積もりと納期が提示されます。 - 前処理 (1日~数日)
洗浄工程に入る前に、シミや特に汚れている部分に対して、専用の薬剤を使った前処理(部分的なシミ抜きなど)を行います。この作業の有無や難易度によって、期間が変わってきます。 - 洗浄 (1日~2日)
革ジャンのクリーニングは、大きく分けて「ドライクリーニング」と「ウェットクリーニング(水洗い)」があります。革の種類や汚れの種類に応じて最適な方法が選ばれますが、いずれも革にダメージを与えないよう、非常にデリケートな洗浄が行われます。 - 乾燥 (数日~2週間)
革ジャンのクリーニングで最も時間がかかり、かつ重要な工程が「乾燥」です。 急激に乾燥させると革が縮んだり硬化したりするため、温度と湿度が管理された専用の乾燥室で、自然乾燥に近い状態でゆっくりと時間をかけて乾かします。ジャケットの形状や革の厚みによっては、完全に乾くまで1週間以上かかることもあります。 - 加脂・仕上げ (1日~数日)
洗浄によって失われた油分を補給するため、専用のクリームやオイルを革に塗り込み、しなやかさと潤いを蘇らせます(加脂)。その後、アイロンやプレス機を使ってシワを伸ばし、全体のフォルムを整えます。色補正やキズ修復などのオプションはこの段階で行われることが多いです。 - 最終検品・梱包 (1日)
仕上がった革ジャンに問題がないか最終チェックを行い、丁寧に梱包されてお客様のもとへ返却されます。
このように、多くの工程を経て革ジャンはクリーニングされるため、どうしても時間が必要になります。
また、以下の要因によっても期間は変動します。
- 依頼先の種類: 一般的なクリーニング店は提携工場へ送るため、輸送に往復の時間がかかります。革専門店は自社工場で一貫して行うため、輸送時間はかかりませんが、一点一点手作業のため時間がかかる傾向があります。宅配クリーニングも輸送期間を含めて考える必要があります。
- 繁忙期: 衣替えのシーズンである春(4月~6月)や秋(10月~11月)は、クリーニング店が最も混み合う時期です。 この時期に依頼すると、通常よりも1〜2週間以上長くかかる可能性があります。
- オプションの有無: 前述の通り、リカラーや修理など複雑な加工を依頼すれば、その分期間は長くなります。
革ジャンをクリーニングに出す際は、着用したい時期から逆算し、最低でも1ヶ月半~2ヶ月の余裕を持って依頼することを強くおすすめします。特に、シーズンオフの間にクリーニングを済ませておくのが最も賢明な方法と言えるでしょう。
革ジャンをクリーニングに出す際の4つの注意点
高価でデリケートな革ジャンをクリーニングに出す際は、後悔しないためにいくつか注意すべきポイントがあります。ただお店に預けるだけでなく、事前にしっかりと情報を確認し、納得した上で依頼することが、トラブルを未然に防ぎ、満足のいく仕上がりを得るための鍵となります。
① 革製品の取り扱いがあるか確認する
まず最も基本的なことですが、依頼しようとしているクリーニング店が、そもそも革製品(レザージャケット)のクリーニングに対応しているかを必ず確認しましょう。特に、近所の一般的なクリーニング店に持ち込む場合は注意が必要です。
「クリーニング店」と看板を掲げていても、すべての店舗が革製品を扱えるわけではありません。革は水や溶剤、熱に非常に敏感な素材であり、専門的な知識と設備がなければ、縮み、硬化、色落ち、風合いの変化といった深刻なダメージを与えてしまうリスクがあります。
そのため、多くの一般的なクリーニング店では、リスクを避けるために革製品の受け付けを断るか、前述の通り、専門の提携工場へ外注する形で対応しています。
確認する際のポイント:
- 公式サイトや店頭の表示: 「レザーウェア」「皮革製品」といったメニューがあるかを確認します。
- 電話や店頭での問い合わせ: 「この革ジャンはクリーニングできますか?」と直接問い合わせるのが最も確実です。その際、できれば革の種類(牛革、羊革など)や、購入時の価格帯、ブランド名などを伝えると、より正確な回答が得られます。
- 合成皮革(フェイクレザー)との違い: 見た目が似ていても、本革と合成皮革ではクリーニング方法が全く異なります。合成皮革は経年劣化(製造から2~3年で表面が剥離・ベタつき始める「加水分解」)を起こしやすく、クリーニングによって劣化が促進されることがあるため、受け付けを断られるケースも多いです。自分のジャケットが本革か合成皮革か、品質表示タグで確認しておきましょう。
安易に預けてしまい、「失敗しました」では取り返しがつきません。「革製品の実績が豊富か」「専門のスタッフがいるか」といった点も、安心して任せられるかどうかの判断基準になります。
② オプションの内容と料金を確認する
革ジャンのクリーニング料金は、「基本料金」と「オプション料金」で構成されています。多くの場合、基本料金に含まれるのは洗浄と基本的な仕上げのみです。そのため、自分の革ジャンに必要なケアがオプションなのか、そしてその料金はいくらなのかを事前にしっかり確認することが非常に重要です。
よくあるオプションメニューには以下のようなものがあります。
- シミ抜き・カビ取り: 軽度なものは基本料金内で対応してくれる場合もありますが、範囲が広い、あるいは根深いシミやカビは、ほぼ間違いなく別途料金が発生します。料金は状態により数千円から1万円以上と幅があります。
- 色補正(リカラー): 摩擦で色が薄くなった部分(袖口、襟元、ポケット周りなど)や、全体的な色褪せを補修する作業です。部分的な補色か、全体的な染め直しかで料金が大きく変わります。
- キズ・スレ修復: 浅いスリキズを目立たなくする補修です。深いキズや破れの修復は、さらに高額な「リペア」扱いになります。
- 撥水・防汚加工: クリーニング後の綺麗な状態を長持ちさせるためのコーティングです。雨や汚れから革を守る効果が期待できます。
- オイルアップ・トリートメント: 通常の加脂工程よりもリッチな栄養分を補給し、革の柔軟性や光沢を向上させる高級仕上げです。
注意すべきは、「どこまでが標準サービスで、どこからが有料オプションか」という線引きが、店舗によって異なる点です。依頼する前には必ず見積もりを取り、作業内容の内訳を明確にしてもらいましょう。「これくらいなら基本料金でやってくれるだろう」という思い込みは禁物です。合計金額が思ったより高額になって驚く、といった事態を避けるためにも、細かく確認する姿勢が大切です。
③ 保証制度の有無をチェックする
どんなに信頼できる専門店でも、クリーニングに100%絶対はありません。万が一、クリーニングによって革ジャンに何らかのトラブル(破損、著しい風合いの変化、縮みなど)が発生してしまった場合に備え、その店舗の保証制度(賠償基準)がどうなっているかを確認しておくことは、自分の財産を守る上で非常に重要です。
多くのクリーニング店は、「クリーニング事故賠償基準」という業界団体が定めたガイドラインに沿って補償を行っています。この基準は、商品の購入からの経過年数や使用状況を考慮して賠償額を決定するもので、必ずしも購入時の金額が全額返ってくるわけではない点に注意が必要です。
確認する際のポイント:
- 賠償基準の明示: 受付票の裏や店内のポスター、公式サイトなどに賠償基準が明記されているかを確認します。
- 再仕上げの対応: 仕上がりに不満があった場合、無料で再仕上げ(やり直し)をしてもらえるかどうかも重要なポイントです。
- 高額品・ブランド品の取り扱い: 購入価格が数十万円するような高価な革ジャンの場合、通常の賠償基準ではカバーしきれないことがあります。そうした高額品専用の保険や保証コースを用意している店舗もあるため、該当する場合は相談してみましょう。
事前に保証内容を理解しておくことで、安心して預けることができますし、万が一の際にも冷静に対応できます。
④ クーポンやキャンペーンを活用する
革ジャンのクリーニングは決して安くありません。少しでも費用を抑えるために、クーポンやキャンペーンを賢く活用しましょう。多くのクリーニング店(特に大手チェーンや宅配サービス)では、様々な割引を提供しています。
- 初回限定クーポン: 初めてそのサービスを利用する人向けの割引です。割引率が高いことが多いので、新しいお店を試す際には必ずチェックしましょう。
- 複数点割引: 「2点以上で10%オフ」のように、他の衣類とまとめて出すことで割引が適用される場合があります。衣替えのタイミングで、コートやダウンジャケットなどと一緒に出すのがおすすめです。
- 季節のキャンペーン: 衣替えの時期(春・秋)や、閑散期(夏・冬)に、特定のアイテムを対象としたキャンペーンが行われることがあります。
- 会員割引・リピーター割引: 会員登録をしたり、継続して利用したりすることで適用される割引です。気に入ったお店が見つかったら、リピーターになることでお得に利用できます。
これらの情報は、お店の公式サイトやチラシ、メールマガジン、SNSアカウントなどで告知されています。依頼する前には、一度これらの媒体をチェックしてみる習慣をつけると良いでしょう。少しの手間で数千円単位の節約に繋がることもあります。
自宅で革ジャンは洗濯できる?
プロのクリーニングは安心ですが、料金や日数がかかるのも事実です。「軽い汚れくらいなら、自分で洗えないだろうか?」と考える方もいるかもしれません。
結論から言うと、一部の革ジャンは自宅で水洗いすることも不可能ではありません。しかし、それは非常にリスクの高い行為であり、基本的には推奨されません。 挑戦する場合は、失敗して革ジャンがダメになってしまう可能性も覚悟の上、完全な自己責任で行う必要があります。
革は本来、水に弱い素材です。不適切な方法で洗うと、以下のような深刻なトラブルを引き起こす可能性があります。
- 縮み・硬化: 革の繊維が収縮し、サイズが小さくなったり、カチカチに硬くなったりする。
- 色落ち・色移り: 染料が流れ出し、色がまだらになったり、他の部分に色が移ったりする。
- シミ・輪ジミ: 水分が均一に乾かず、シミが残る。
- 型崩れ: 革が伸びたりヨレたりして、元の形を失う。
- カビの発生: 乾燥が不十分で、内部に湿気が残りカビが生える。
これらのリスクを理解した上で、それでも自宅での洗濯に挑戦したいという場合は、必ず以下の事前確認を徹底してください。
洗濯前に必ず確認すべきこと
洗濯表示のチェック
まず、革ジャンの内側についている品質表示タグの「洗濯表示(取り扱い絵表示)」を必ず確認します。ここに、その製品が家庭で洗濯できるかどうかの情報が記されています。
- 「家庭での洗濯禁止(水洗い不可)」マーク: 桶に×印がついたこのマークがある場合、その革ジャンは家庭での水洗いができません。これはメーカーが水洗いを想定して製造していない証拠であり、無理に洗うとほぼ確実に失敗します。この表示がある場合は、絶対に自分で洗わず、プロに任せてください。
- 「手洗い」マーク: 桶に手を入れているマーク。これは「液温40℃を限度とし、手洗いができる」ことを示します。この表示があれば、理論上は自宅での手洗いが可能です。しかし、革製品の場合は、この表示があっても慎重になるべきです。
- 素材の確認: 洗濯表示と合わせて、素材も確認しましょう。「牛革」「馬革」といったスムースレザーで、かつ「手洗い可」の表示があるものが、比較的リスクが低いと言えます。一方で、スエード、ヌバック、ムートンといった起毛系の革や、エナメル加工、爬虫類系の革は、水に濡れると風合いが劇的に変化してしまうため、たとえ手洗い可の表示があっても自宅での洗濯は絶対に避けるべきです。
色落ちのチェック
「手洗い可」の表示があっても、革製品は色落ちする可能性が高いです。洗濯を始める前に、必ず目立たない場所で色落ちテストを行ってください。
【色落ちチェックの手順】
- 白い布やコットンを用意します。
- 布に、洗濯で使用する予定の洗剤を少量含ませた水(または革用クリーナー)をつけます。
- 革ジャンの裏側や裾の内側、ポケットの中など、普段は見えない部分を、その布で優しくポンポンと叩くように拭きます。
- 白い布に革の色が移らないかを確認します。
もし少しでも色が移るようであれば、その革ジャンを全体的に水洗いすると、深刻な色落ちや色ムラが発生する可能性が非常に高いです。その場合は、自宅での洗濯は諦め、プロに相談しましょう。色が移らなければ、次のステップに進むことができますが、リスクがゼロになったわけではないことを忘れないでください。
自宅で革ジャンを洗う7つのステップ
前述の確認事項をクリアし、リスクを承知の上で自宅での洗濯に挑む場合、以下の手順を厳守してください。一つ一つの工程を丁寧に行うことが、失敗の確率を少しでも下げることに繋がります。
① ブラシでホコリを落とし部分汚れを拭く
まず、洗濯槽に入れる前に、革ジャンの表面に付着したホコリやチリを丁寧にブラッシングして落とします。馬毛のような柔らかい毛のブラシを使い、縫い目やポケット周りなども忘れずに行いましょう。ホコリが付いたまま濡らすと、汚れが固まってしまう原因になります。
次に、襟元や袖口の皮脂汚れなど、特に気になる部分汚れがあれば、固く絞った濡れタオルで優しく叩くように拭き取ります。革用のクリーナーを使うのも効果的ですが、この場合も必ず目立たない場所で試してから使用してください。
② ぬるま湯と中性洗剤で優しく押し洗いする
いよいよ洗浄です。洗濯機は絶対に使わず、浴槽や大きめのタライなど、革ジャンがゆったりと浸かる容器を用意します。
- 30℃以下のぬるま湯を張ります。熱いお湯は革が縮む最大の原因になるため、厳禁です。
- 革用、またはおしゃれ着用の中性洗剤を規定量溶かします。アルカリ性や弱アルカリ性の洗剤は、革の油分を奪いすぎて硬化の原因になるため使用しないでください。
- 革ジャンをたたみ、ゆっくりとぬるま湯に沈めます。
- 絶対にゴシゴシ擦ったり、揉んだりしないでください。 衣類を持ち上げたり沈めたりを繰り返す「押し洗い」で、優しく汚れを浮き出させます。時間は5分程度を目安に、できるだけ短時間で済ませるのがポイントです。
③ きれいな水でしっかりすすぐ
洗剤成分が革に残ると、シミや変質の原因になります。洗浄が終わったら、すぐに汚れた水を捨て、新しいきれいな水(これも30℃以下のぬるま湯)に入れ替えて、優しく押し洗いするようにすすぎます。
この作業を2〜3回繰り返し、泡が出なくなるまでしっかりとすすいでください。すすぎの際も、革を強く絞ったりねじったりしないよう、細心の注意を払いましょう。
④ 大きなタオルで水気を吸い取る
すすぎが終わったら、革ジャンを浴槽の縁などにかけて、ある程度自然に水気を切ります。その後、吸水性の高い大きなバスタオルを広げ、その上に革ジャンを置きます。
もう一枚のバスタオルで上から挟み込むようにし、優しく押さえつけて水分をタオルに移し取ります。 これをタオルが濡れなくなるまで、乾いたタオルに交換しながら数回繰り返します。この工程を丁寧に行うことで、乾燥時間を短縮し、水ジミのリスクを減らすことができます。
⑤ 形を整えて風通しの良い場所で陰干しする
水気がある程度取れたら、いよいよ乾燥です。ここが最も重要な工程の一つです。
- ハンガー: 型崩れを防ぐため、肩の部分に厚みのある、しっかりとした木製ハンガーなどを使用します。針金ハンガーは肩に跡がつくので絶対にやめましょう。
- 形を整える: ハンガーにかけたら、手で優しくシワを伸ばし、全体の形を整えます。特に肩や袖、前身頃のラインを意識して、元の形状に近づけるようにします。
- 干す場所: 直射日光は絶対に避けてください。 紫外線は色褪せや革の劣化を招きます。必ず、風通しの良い日陰で干します。室内であれば、窓を開けて空気が流れる場所や、扇風機で弱い風を当てるのも効果的です。
⑥ 乾いたら保革クリームやオイルを塗る
革ジャンがまだ半乾きの状態(触るとひんやりするが、水滴はつかない程度)になったら、保革ケアを行います。完全に乾ききってしまう前に油分を補給することで、オイルが浸透しやすくなり、硬化を防ぐことができます。
ミンクオイルやデリケートクリームなど、革用の保革剤を少量ずつ布やスポンジに取り、薄く均一に全体へ塗り込んでいきます。特に、乾燥しやすい肩や肘、縫い目などは丁寧に塗り込みましょう。塗りすぎはベタつきやカビの原因になるので注意が必要です。
⑦ 完全に乾くまで待つ
オイルを塗り終えたら、再度、風通しの良い日陰で干し続けます。革の厚みや湿度にもよりますが、完全に乾くまでには数日から1週間以上かかることもあります。
表面が乾いたように見えても、内部に湿気が残っているとカビの原因になります。焦らず、じっくりと時間をかけて完全に乾燥させることが、自宅での洗濯を成功させる最後の鍵となります。完全に乾いたら、軽くブラッシングして毛並みを整え、完了です。
自宅で革ジャンを洗う際の注意点
自宅での革ジャン洗濯は、前述のステップを丁寧に行うことに加え、絶対に守るべき鉄則があります。これを破ると、一瞬で高価な革ジャンを台無しにしてしまう可能性があるため、改めて注意点をまとめます。
洗濯機・乾燥機の使用は絶対に避ける
「手洗いコースなら大丈夫だろう」「短時間なら…」といった考えで洗濯機を使用するのは、絶対にやめてください。 洗濯機の回転による摩擦や遠心力は、革に深刻なダメージを与えます。
- 型崩れ: 革が不自然に伸びたり、ヨレたりして、元のシルエットが完全に失われてしまいます。
- キズ・スレ: ドラムとの摩擦で、革の表面(銀面)が削れたり、深いキズがついたりします。
- 縫製の破損: 強い水流や遠心力で、縫い目がほつれたり、切れたりする可能性があります。
同様に、家庭用の衣類乾燥機や、浴室乾燥機の温風、ドライヤーの熱風を当てることも厳禁です。 革に含まれるタンパク質は熱に非常に弱く、急激な加熱によって繊維が収縮し、カチカチに硬化してしまいます。一度硬化してしまった革を元のしなやかな状態に戻すのは、プロでも極めて困難です。
乾燥は「時間をかけて、風通しの良い日陰で、自然に」が鉄則です。
洗剤は革用かおしゃれ着用の中性洗剤を選ぶ
洗剤選びも、仕上がりを左右する重要な要素です。普段の洗濯で使っている一般的な弱アルカリ性の洗濯洗剤は、洗浄力が強すぎるため絶対に使用しないでください。
弱アルカリ性洗剤は、革が持つ本来の油分まで根こそぎ奪ってしまいます。油分を失った革は潤いがなくなり、パサパサになって柔軟性を失い、ひび割れや硬化の原因となります。
自宅で洗う場合は、必ず以下のいずれかの洗剤を使用しましょう。
- 革専用洗剤(レザーソープ): 最も理想的な選択肢です。革製品のために開発されているため、汚れを落としつつも、革へのダメージを最小限に抑え、必要な油分を残すように作られています。保湿成分が含まれているものも多く、洗い上がりの風合いが良い傾向があります。
- おしゃれ着用の中性洗剤: もし革専用洗剤が手に入らない場合の代替案です。ウールやシルクといったデリケートな素材を洗うために作られており、洗浄力がマイルドな「中性」であることがポイントです。ただし、革専用ではないため、使用は自己責任となります。必ず規定量を守り、入れすぎないように注意してください。
洗剤のパッケージ裏にある「液性」の欄を必ず確認し、「中性」と書かれているものを選ぶことが、自宅での洗濯における最低限のルールです。
革ジャンを長持ちさせる普段のお手入れと保管方法
高価なクリーニングやリスクのある自宅洗濯の頻度を減らし、革ジャンを常に良いコンディションで保つためには、日々の地道なお手入れと、シーズンオフの正しい保管方法が何よりも重要です。これらを習慣づけることで、革は美しく経年変化し、本当の意味での「一生物」となります。
シーズン中のお手入れ
着用シーズン中は、革への負担も大きくなります。高価な道具は必要ありません。ちょっとした一手間をかけるだけで、革の状態は大きく変わります。
着用後は毎回ブラッシングする
その日に着た革ジャンは、脱いだらすぐにハンガーにかけ、ブラッシングする習慣をつけましょう。 これが最も簡単で効果的なメンテナンスです。
- 目的: 表面に付着したホコリ、チリ、排気ガスなどの目に見えない汚れを落とすこと。これらの汚れを放置すると、革の油分を吸ってシミになったり、湿気を呼んでカビの原因になったりします。
- 方法: 馬毛などの柔らかいブラシを使い、革の表面を優しく撫でるようにブラッシングします。特にホコリが溜まりやすい肩周りや、縫い目の部分、ポケットのフラップ裏などを丁寧に行いましょう。ゴシゴシと強く擦る必要はありません。
- 頻度: 理想は着用するたびです。面倒に感じるかもしれませんが、1〜2分で終わるこの作業が、数年後の革の状態に大きな差を生みます。
定期的にオイルやクリームで保湿する
人間の肌が乾燥するように、革も時間と共に油分が抜け、乾燥します。乾燥は硬化やひび割れの直接的な原因となるため、定期的な保湿ケアが不可欠です。
- 目的: 洗浄で失われた油分を補い、革の柔軟性と潤いを保つこと。また、油分の膜が軽い水や汚れから革を守る効果もあります。
- 頻度: 1〜2ヶ月に1回程度が目安です。ただし、革の種類や着用頻度、触ってみて「少しカサついてきたな」と感じた時が最適なタイミングです。やりすぎはベタつきやカビの原因になるため禁物です。
- 方法:
- まず、ブラッシングで表面のホコリを完全に落とします。
- デリケートクリームやミンクオイルなどの保革剤を、綺麗な布やスポンジに少量取ります。
- 円を描くように、薄く、均一に塗り広げていきます。一度にたくさん塗るのではなく、少量ずつ馴染ませるのがコツです。
- 塗り終えたら、30分〜1時間ほど置き、オイルを革に浸透させます。
- 最後に、余分なオイルを乾いた布で優しく拭き取って完了です。
シーズンオフの保管方法
春になり、革ジャンの出番がなくなったら、次の秋まで長期間保管することになります。この保管期間中の環境が、革ジャンの寿命を大きく左右します。
汚れを落としてから保管する
シーズン中に付着した汚れをそのままにして保管するのは絶対にやめましょう。 目に見えない汗や皮脂汚れが、カビや虫食いの絶好の栄養源となってしまいます。
- 基本: まずはシーズン中と同様に、全体を丁寧にブラッシングします。
- 部分汚れ: 襟元や袖口など、肌が直接触れる部分は特に汚れがちです。固く絞った濡れタオルで優しく拭き、汚れを取り除きます。
- 保湿: 汚れを落とした後は、革が乾燥しないように全体に薄くオイルやクリームを塗っておきましょう。
- クリーニング: 全体的に汚れがひどい場合や、シミがある場合は、このタイミングでプロのクリーニングに出すのが理想的です。
太めのハンガーにかけて不織布カバーをかける
保管時のハンガー選びとカバーは非常に重要です。
- ハンガー: 肩幅に合い、厚みのある木製やプラスチック製のハンガーを選びます。細いハンガーは、長期間の重みで肩の部分が伸びてしまい、型崩れの原因になります。
- カバー: クリーニングから返ってきた際についてくるビニールカバーは、必ず外してください。 ビニールは通気性が全くないため、内部に湿気がこもり、カビの温床となります。保管には、通気性の良い不織布製のカバーを使用するのが最適です。ホコリを防ぎつつ、空気の循環を妨げません。
風通しの良い湿気のない場所に保管する
革ジャンにとって、「高温多湿」と「直射日光」は最大の敵です。
- 場所: クローゼットや押し入れに保管する場合は、できるだけ風通しの良い、湿気が少ない場所を選びます。壁に密着させず、他の衣類とも少し間隔を空けて、空気の通り道を作ってあげましょう。
- 湿気対策: 除湿剤や乾燥剤をクローゼット内に置くのは非常に効果的です。定期的にクローゼットの扉を開けて、空気を入れ替えることも忘れずに行いましょう。
- NGな場所: 日光が当たる部屋や、湿気の多い地下室、結露しやすい窓際は避けてください。
これらの日々のケアと正しい保管を実践することが、高価な革ジャンを末永く、最高の状態で楽しむための最も確実な方法です。
困ったときのトラブル対処法
どんなに気をつけていても、思わぬトラブルに見舞われることはあります。カビやシミができてしまった時、慌てて自己流で対処すると、かえって状態を悪化させてしまうことも。ここでは、初期段階で試せる応急処置と、その限界について解説します。
カビが生えてしまった場合
クローゼットの奥から久しぶりに出した革ジャンに、白い綿のようなものや、緑・黒の点々が…それはカビです。発見した時のショックは大きいですが、冷静に対処しましょう。
【初期段階の対処法】
- 乾いた布で優しく拭き取る: まず、カビの胞子を吸い込まないようマスクをし、屋外や換気の良い場所で作業します。乾いた柔らかい布で、カビの生えている部分を優しく拭き取ります。強く擦るとカビの菌糸を革の毛穴に押し込んでしまうので注意してください。
- 消毒用アルコールで拭く: 拭き取った後、消毒用のエタノール(アルコール)を少し含ませた布で、カビが生えていた箇所をポンポンと軽く叩くように拭き、殺菌します。ただし、アルコールは色落ちの原因になる可能性があるので、必ず事前に裏側などの目立たない場所でテストしてから行ってください。
- 陰干しで完全に乾燥させる: 最後に、風通しの良い日陰で数日間しっかりと干し、内部の湿気とアルコール分を完全に飛ばします。
【注意点と限界】
この方法は、あくまで表面に発生したごく初期のカビに対する応急処置です。カビは革の内部に根を張っていることが多く、表面を拭いただけでは再発する可能性が高いです。
- 広範囲にカビが広がっている場合
- カビ臭が取れない場合
- スエードやヌバックなどの起毛素材に生えた場合
これらのケースでは、自己処理はほぼ不可能です。無理せず、速やかに革専門のクリーニング店に相談してください。 プロは専用の薬剤と技術で、革の芯からカビを殺菌・除去してくれます。
シミができてしまった場合
食事中にソースをこぼしたり、雨に濡れてしまったりと、シミは日常の中で突然できてしまいます。シミは種類によって対処法が異なります。
水性のシミ
(例:コーヒー、お茶、ジュース、醤油、雨染みなど)
水性のシミは、油分を含まないため、比較的対処しやすいです。重要なのは「スピード」です。
【対処法】
- すぐに拭き取る: シミができたら、間髪入れずに乾いた布やティッシュを押し当て、水分を吸い取ります。
- 水拭きで叩く: 次に、水で濡らして固く絞った布を用意し、シミの外側から中心に向かって、優しくトントンと叩くように汚れを布に移し取っていきます。円を描くように擦ると、シミが広がってしまうので絶対にやめましょう。
- 乾かす: ある程度シミが薄くなったら、乾いた布で水分を拭き取り、風通しの良い日陰で自然乾燥させます。ドライヤーの熱は厳禁です。
乾いた後に輪ジミが残ってしまうこともありますが、初期対応をすることで、その後のプロによるシミ抜きも成功しやすくなります。
油性のシミ
(例:ドレッシング、バター、化粧品、ボールペンインクなど)
油性のシミは、革の繊維に染み込みやすく、水拭きでは落ちません。自己処理は非常に難しく、リスクが伴います。
【対処法(限定的)】
- 吸い取る: 付いてすぐであれば、小麦粉やベビーパウダーなどの粉をシミの上に振りかけ、油分を吸着させるという方法があります。しばらく置いた後、粉をブラシで優しく払い落とします。
- 革用クリーナー: 市販の革用シミ抜き剤やクリーナーを使う方法もありますが、製品によっては色落ちや変質のリスクがあります。必ず目立たない場所でパッチテストを行ってから、自己責任で使用してください。
- ボールペンインク: 消しゴムで軽く擦ると落ちる場合もありますが、革の表面を傷つける可能性が高いです。
基本的には、油性のシミやインクのシミができてしまったら、下手に触らずにそのままの状態でプロに持ち込むのが最も賢明です。 時間が経てば経つほど落としにくくなるため、できるだけ早く専門家に相談しましょう。
革ジャンクリーニングにおすすめの宅配サービス6選
※掲載しているサービス内容や料金は、記事執筆時点での情報です。最新の情報は各サービスの公式サイトにて必ずご確認ください。
自宅にいながら全国の優良店に依頼できる宅配クリーニングは、忙しい方や近所に専門店がない方にとって非常に便利な選択肢です。ここでは、革ジャンのクリーニングで定評のある代表的なサービスを6つご紹介します。
① リネット
「リネット」は、会員数も多く、利便性の高さで人気の宅配クリーニングサービスです。一般的な衣類がメインですが、皮革・毛皮製品に対応する専門の「DXコース」を用意しています。
- 特徴: スマホアプリからの手軽な申し込み、最短翌日届け(※対象エリア・衣類による)といったスピーディーさが魅力です。革ジャンは専門工場での取り扱いとなり、品質にも定評があります。
- 料金: 革ジャン(ブルゾン・ジャンパー)で7,590円〜(税込)。素材やデザインによって変動します。
- オプション: シミ抜き(無料範囲あり)、撥水加工など。
- 納期: 約50日〜。
- 保証: 安心保証制度があり、万が一の事故の際には再仕上げや賠償に対応。
こんな人におすすめ: 手軽さと速さを重視しつつ、信頼できる大手に任せたい方。
(参照:リネット公式サイト)
② キレイナ (KILEINA)
「キレイナ」は、高級ブランド品やウェディングドレス、舞台衣装など、他店で断られるような特殊な衣類を専門に扱う、ハイレベルな技術力が自慢の宅配クリーニングです。
- 特徴: 一点一点の状態を丁寧に診断し、最適な洗い方と仕上げを提案する完全オーダーメイド方式。ウェットクリーニングにこだわり、汗や臭いを根本から除去します。革製品の扱いや修復技術もトップクラスです。
- 料金: 個別見積もり制。レザージャケットの参考価格は16,500円〜(税込)となっており、高価格帯ですが、それに見合うクオリティが期待できます。
- オプション: 黄ばみ除去、リカラー、修理など、高度な修復に対応。
- 納期: 状態や加工内容により変動(要見積もり)。
こんな人におすすめ: 大切にしている高級ブランドの革ジャンや、深刻なダメージを負った革ジャンを、最高の技術で蘇らせたい方。
(参照:キレイナ公式サイト)
③ リナビス
「リナビス」は、「おせっかいなクリーニング」をコンセプトに、熟練の職人による丁寧な手仕上げが特徴のサービスです。
- 特徴: 料金体系が衣類の種類ごとで分かりやすく、無料の「8大おせっかい(シミ抜き、毛玉取り、ボタン修理など)」が魅力。革製品も専門の職人が対応します。最長12ヶ月の無料保管サービスも人気です。
- 料金: 革ジャンパー・ブルゾンで10,450円(税込)。革コートは16,280円(税込)。
- オプション: 撥水加工、汗抜き加工など。
- 納期: 約10営業日〜(保管サービス利用時を除く)。
こんな人におすすめ: 職人の手仕事による安心感を求めつつ、便利な無料サービスや長期保管を利用したい方。
(参照:リナビス公式サイト)
④ 革水(かわすい)
「革水」は、その名の通り、革製品を水洗いする技術に特化した革専門のクリーニングサービスです。
- 特徴: 独自の「革水洗い」技術により、ドライクリーニングでは落としきれない汗の塩分や臭いの元をすっきりと洗い流します。硬化や縮みを防ぐための栄養補給も同時に行い、しなやかな仕上がりを実現します。
- 料金: レザーブルゾンで8,800円〜(税込)。素材や状態により変動。
- オプション: カビ取り、色補正、キズ補修など、革専門ならではの豊富なオプション。
- 納期: 約3週間〜。
こんな人におすすめ: 汗や臭いが特に気になる革ジャンを、さっぱりと丸洗いしてリフレッシュさせたい方。
(参照:革水公式サイト)
⑤ ワードローブトリートメント
「ワードローブトリートメント」は、最高級の品質を追求する富裕層向けの超高級クリーニングサービスです。
- 特徴: カルテを作成し、一人の職人がカウンセリングから仕上げまで一貫して担当する完全個別対応。水は天然の軟水を使用し、洗いから乾燥、仕上げまで全てにおいて最高級のケアを提供します。
- 料金: 完全見積もり制。レザージャケットの参考価格は24,200円〜(税込)と、業界でも最高水準の価格帯です。
- オプション: あらゆる修理・修復に対応可能。
- 納期: 要見積もり。
こんな人におすすめ: 価格は問わず、とにかく最高の技術とサービスで、かけがえのない一着をメンテナンスしたい方。
(参照:ワードローブトリートメント公式サイト)
⑥ 白洋舍
100年以上の歴史を持つクリーニング業界の老舗「白洋舍」も、店舗だけでなく宅配サービスを提供しています。
- 特徴: 長年培われた信頼と実績が最大の強み。革製品は専門の工場で、素材やデザインに合わせて最適な方法でクリーニングされます。老舗ならではの安心感を求める方に向いています。
- 料金: レザーブルゾン(ウエスト丈)で7,700円〜(税込)。デザインや付属品により加算あり。
- オプション: 撥水加工、ローヤルクリーニング(上級コース)など。
- 納期: 約4週間〜。
こんな人におすすめ: 企業の信頼性や実績を重視し、安心して任せたい方。店舗での受け取りなども組み合わせたい方。
(参照:白洋舍公式サイト)
サービス名 | 料金目安(革ジャン) | 特徴 |
---|---|---|
リネット | 7,590円~ | ・利便性とスピード感が魅力の大手サービス |
キレイナ | 16,500円~(見積もり制) | ・高級品・特殊品に特化したオーダーメイドクリーニング |
リナビス | 10,450円 | ・職人による手仕上げと無料の「おせっかい」サービス |
革水 | 8,800円~ | ・革を水洗いする独自技術で汗や臭いに強い |
ワードローブトリートメント | 24,200円~(見積もり制) | ・最高品質を追求する富裕層向けの超高級サービス |
白洋舍 | 7,700円~ | ・100年以上の歴史を持つ老舗の信頼感と実績 |